― 「ゆがみ」という言葉を、医学的に整理します ―
「骨盤が歪んでいますね」
整体やマッサージ、治療の場で、そう言われた経験はありませんか。
その言葉をきっかけに、
- このままだと悪くなるのでは
- 歪みを直さないと運動してはいけないのでは
- 自分の身体は壊れているのでは
そんな不安を感じている方も少なくありません。
このページでは、
骨盤を整える方法を紹介することが目的ではありません。
まずは、
「骨盤のゆがみ」とは、実際には何を指しているのか
そこを医学的な視点から整理します。
「骨盤のゆがみ」と言われるとき、何が想定されているのか

一般に「骨盤のゆがみ」と言われるとき、
解剖学的に想定されていることが多いのは、次の部位です。
- 仙腸関節(せんちょうかんせつ)
- 恥骨結合
- 左右の腸骨の位置関係
この中でも特に話題に上がりやすいのが、仙腸関節です。
仙腸関節は「大きくズレる関節」ではありません

医療の分野では、
仙腸関節は安定性を重視した関節として扱われます。
実際に、X線を用いた精密な研究では、
仙腸関節の動きは
- 並進(ズレ):1〜2mm程度
- 回旋(ねじれ):1〜2°未満
という、非常に小さな範囲であることが示されています【文献①】。
つまり、
- 日常生活で大きくズレる
- 元に戻らないほど歪む
といった性質の関節ではありません。
「ズレている感覚」と「骨のズレ」は別の話です

では、なぜ
「歪んでいる感じがする」
「傾いていると言われる」
のでしょうか。
多くの場合に関係しているのは、
- 筋肉の使われ方の左右差
- 体重のかけ方の偏り
- 動作中の制御や感覚の違い
といった機能的な要素です。
解剖学的にも、
仙腸関節は靱帯や筋膜に強く支えられ、
**力を伝える役割(安定性)**が重視されています【文献②】。
そのため、
「位置がズレているかどうか」よりも、
どう力が伝わっているか、どう動いているか
のほうが重要になります。
ここまでの話をまとめると、
多くの「骨盤のゆがみ」は“骨のズレ”というより、
動きや感覚の偏りとして整理できます。
左右差がある=異常、ではありません

研究では、
仙腸関節のわずかな動きには
- 個人差
- 左右差
が存在することも示されています【文献③】。
これは病的なものではなく、
人の身体がもともと持っている自然な差です。
左右差があること自体が、
すぐに問題になるわけではありません。
産前・産後に「歪み」が気になりやすい理由

妊娠・出産を経験した方が、
骨盤の不安を感じやすいのには理由があります。
妊娠期には、
- リラキシンなどのホルモンの影響で
- 靱帯の柔軟性が一時的に高まる
ことが知られています【文献④】。
その結果、
- 不安定感
- 違和感
- 左右差の自覚
が出やすくなります。
ただし、これは
病的な「歪み」ではなく、生理学的な変化です。
産後、時間の経過とともにホルモン環境は変化し、
身体の感覚や安定性も徐々に変化していくことが知られています。
不安が強く残る理由は「構造」よりも「イメージ」
実際、問題になりやすいのは、
- 強い言葉で説明された
- 模型や画像でズレを強調された
- 不安な状態で情報を受け取った
ことによって、
実際の身体以上に「歪んだイメージ」が残ってしまうことです。
その結果、
- 整えてもらわないと不安
- 触ってもらわないと怖い
という状態がつくられることもあります。
ここで大切なのは「今、何を判断すべきか」
この時点で考えるべきなのは、
- 骨盤が歪んでいるかどうか
ではなく - 今の身体で、何を選ぶべきか
という判断です。
整えるべきか
動くべきか
様子を見るべきか
それは、
身体の状態によって変わります。
大切なのは、「整えるか」「動くか」「いったん様子を見るか」を、今の身体の状態で判断することです。
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骨盤の不安は、
骨盤だけを見ても整理できないことがほとんどです。
このあと、
- なぜ整えてもすぐ戻ると感じるのか
- なぜ骨盤だけを触っても変わらないのか
- どの段階で何を選ぶべきなのか
を、順番に見ていきます。
ここまで読んで、
「自分の場合は運動していいのか迷う」
そう感じた方は、こちらで一度整理できます。
文献① Sturesson B, Selvik G, Udén A.
Movements of the sacroiliac joints: a roentgen stereophotogrammetric analysis.
Spine. 1989.
文献② Vleeming A, et al.
The sacroiliac joint: an overview of its anatomy, function and potential clinical implications.
Journal of Anatomy. 2012.
文献③ Kibsgård TJ, et al.
Motion of the sacroiliac joint during single-leg stance in patients with pelvic girdle pain.
Clinical Biomechanics. 2014.
文献④ Aldabe D, Milosavljevic S, Bussey MD.
Pregnancy-related pelvic girdle pain and its relationship with relaxin levels.
European Spine Journal. 2012.

