ピラティスで呼吸を意識したとき、
・吸うたびに首が緊張する
・鎖骨が大きく上下する
・呼吸に集中すると首の前が固まる
そんな経験はありませんか?
「呼吸を頑張っているのに、なぜか首がつらい」
それは努力不足ではありません。
問題は
どこで呼吸しているか
です。
なぜ呼吸で首が固まるのか?

本来、安静呼吸の主役は
横隔膜です。
横隔膜は吸気時に収縮して下降し、
胸腔内の容積を増やすことで空気を取り込みます。
このとき身体では、
・下位肋骨が側方へ広がる
・腹部が穏やかに膨らむ
・体幹内圧が自然に安定する
といった反応が起こります。
呼吸生理学の研究では、
安静吸気における主動作筋は横隔膜であり、
胸鎖乳突筋や斜角筋などの呼吸補助筋は通常ほとんど活動しないとされています(文献①)。
また、機能解剖学の整理でも、
安静呼吸では横隔膜が吸気の主要な換気を担い、
補助筋は努力呼吸時に活動が増加すると示されています(文献②)。
つまり本来、
首は呼吸の主役ではない
のです。
首で呼吸している状態とは?

横隔膜が十分に働かない場合、
本来“努力呼吸”で動員される筋が代わりに活動します。
代表的なのが、
・胸鎖乳突筋
・斜角筋
・僧帽筋上部
といった首まわりの筋です。
この状態では、
・吸うたびに鎖骨が持ち上がる
・肩がすくむ
・のど元が緊張する
・吸気時に首の筋が浮き出る
といった反応が見られます。
つまり、
呼吸のたびに首を使っている状態
です。
本質は「量」ではなく「使う筋」

よくある誤解は、
「もっと大きく吸えばよい」
「胸を広げれば安定する」
という考え方です。
しかし重要なのは、
どれだけ吸うかではなく
どの筋で吸っているか
です。
大きく吸っても、
首の筋で吸えば緊張は増えます。
逆に、
吸う量が控えめでも
横隔膜が主役であれば首は固まりにくい。
問題は呼吸の“量”ではなく、
呼吸の主役が横隔膜か、首か
なのです。
横隔膜と体幹安定の関係

横隔膜は単なる呼吸筋ではありません。
腹横筋や骨盤底筋と協調しながら
体幹内圧を調整し、
姿勢安定にも関与します(文献③)。
この協調が適切に働くと、
体幹は内側から安定し、
頸部筋に過剰な負担がかかりにくくなります。
一方で、この協調が失われると、
体幹の安定を補うために
頸部筋の代償活動が増加することが
筋電図(EMG)研究でも報告されています(文献④)。
つまり、
呼吸が乱れることは
首の緊張と直結する可能性がある
ということです。
なぜ横隔膜が使えなくなるのか?
横隔膜が働きにくくなる背景には、
・胸郭の可動性不足
・顎が前に出た姿勢
・慢性的な緊張状態
・ストレス下での浅速呼吸
などが関係します。
ストレス時には交感神経優位となり、
浅く速い呼吸になりやすく、
呼吸補助筋の活動が増えることも知られています。
その結果、
「呼吸を意識するほど首が固まる」
という現象が起こります。
続けていい?やめるべき?

続けてよい可能性が高い場合
・軽い緊張のみ
・呼吸パターンを変えると軽減する
・翌日まで残らない
一度評価した方がよい場合
・めまいが出る
・しびれを伴う
・息苦しさが強い
・頭痛が出る
判断に迷う場合はこちら。
首問題の全体像を整理したい方へ

首の違和感は、
・どの部分がつらいのか
・どの動きで症状が出るのか
・呼吸と関係しているのか
によって背景が変わります。
同じ「首がつらい」でも、
首の前に出るのか、
ロールアップで出るのか、
呼吸を意識したときに固まるのかで、
整理すべき順番は異なります。
首に力が入る原因の全体像は、
こちらの総合ガイドで体系的にまとめています。
① De Troyer A, Kirkwood PA, Wilson TA. Respiratory action of the intercostal muscles. Physiol Rev. 2005.
② Kapandji IA. The Physiology of the Joints, Volume 3: The Trunk and the Vertebral Column.
③ Hodges PW, Gandevia SC. Activation of the human diaphragm during a repetitive postural task. J Physiol. 2000.
④ Hodges PW et al. Coordination of the diaphragm, abdominal and pelvic floor muscles during postural tasks. Exp Brain Res.

